仙台高等裁判所 平成5年(行コ)9号 判決 1995年7月31日
福島県いわき市平山崎字熊ノ宮八〇番地
控訴人
志賀創
右訴訟代理人弁護士
鶴見祐策
福島県いわき市平字菱川町六丁目三番地
被控訴人
いわき税務署長 庄司幹夫
右指定代理人
中條隆二
同
久城博
同
山田昇
同
千葉泰夫
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一当事者の求めた判決
一 控訴人
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人が、昭和五八年三月一一日付けで、控訴人に対してした更正処分のうち、昭和五四年分所得税について所得金額五一二万八五〇〇円、昭和五五年分所得税について所得金額四七八万五〇〇〇円及び昭和五六年分所得税金額四三七万八七六〇円を超える各部分(但し、昭和五四年分については審査請求で取り消された部分を除く。)並びに昭和五四年、昭和五五年及び昭和五六年分の過少申告加算税の各賦課決定処分(但し、昭和五四年分については審査請求で取り消された部分をの除く。)は、これを取り消す。
3 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二 被控訴人
主文と同旨
第二事案の概要
一 前提事実(争いがない事実)
1 控訴人は、学校法人志賀学園(以下「志賀学園」という。)の理事長の地位にあったものである。
2 控訴人の昭和五四年ないし昭和五六年分の所得税について、控訴人が被控訴人に対してした確定申告(以下「本件各申告」という。)について、被控訴人はいずれも更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税賦課決定処分(以下、「本件各賦課処分」といい、本件各更正処分と併せて「本件各更正処分等」という。)をし、これに対し、控訴人は異議申立て等の不服申立てをしたが、その経緯及び内容は別表一記載のとおりである。
3(一) 昭和五六年二月ころ、いわき税務署管内で保育園を経営する社会福祉法人蛍保育園(以下「蛍保育園」という。)において、収入除外、経費の水増し計上などにより生じた簿外剰余金が蛍保育園の役員の個人的消費に充てられているにもかかわらず、所得税の源泉徴収が行われていない疑いがあるとして、同税務署所属職員である草野国税調査官は、同年四月に蛍保育園に臨場して、源泉所得税の調査に着手し、二日目から同税務署所属職員青木上席国税調査官も同行して、同年九月ころまで右調査を続行した。
(二) 次いで、同年一〇月、青木上席調査官と草野調査官とは、蛍保育園の理事長志賀トシヱ(以下「トシヱ」という。)が理事を務める志賀学園に臨場して、志賀学園の源泉所得税の調査に着手し、調査が行われた。
(三) 蛍保育園に対する前記調査の結果、蛍保育園において、昭和五四年ないし昭和五六年分について収入除外、経費の水増し計上などの事実があり、これにより生じた簿外剰余金はトシヱに対する臨時的な給料と認められるもの(以下「各認定賞与」という。)として、また、志賀学園に対する前記調査の結果、志賀学園においても、右各年分において収入除外、経費の水増し計上などの事実があり、これにより生じた簿外剰余金は理事長である控訴人に対する認定賞与となるものとして、それに、源泉所得税が徴収漏れとなっている控訴人に対する役員報酬の支払(以下、右各認定賞与と合わせて「本件各認定賞与等」という。)があるとして、被控訴人は、いずれも昭和五六年一二年二五日付けで、蛍保育園及び志賀学園に対して、各認定賞与又は本件各認定賞与等について源泉所得税の納付を催告する各納税告知処分を行った。
(四) 蛍保育園及び志賀学園に対する前記各納税告知処分は、蛍保育園及び志賀学園のいずれからも被控訴人に対する異議申立てがなく、確定している。
二 争点及び当事者の主張
1 手続きの違法性(争点その一)
(控訴人の主張)
(一) 本件各更正処分は、本件各申告書に記載された控訴人の所得及び税額をその対象とするものであるから、所得税法二三四条一項一号にいう「納税の義務のある者」に該当する控訴人に対して必要な質問検査がされていいはずのものであるが、されていない。被控訴人は、本件各申告書、志賀学園に対する調査事績・納税告知処分及び同処分に対する不服申立ての有無を検討したというが、これらは控訴人の所得金額の実績を把握し、税額を算定するための調査とはいい難いから、結局、本件各更正処分は、国税通則法二四条所定の調査によることなく行われた違法なものである。
(二)(1) 本件各更正処分は、昭和五六年の青木調査官らによる蛍保育園に対する源泉所得税調査に始まるものであるが、その端緒は、被控訴人において、民営の保育園が非公式に入園させている法外児(保育園児の定員に応じて公共団体から措置費が支給されているが、その措置費が支給されない定員外の園児)の保護者から保育園が受領する保育料を課税対象とするため、いわき税務署管内の民営保育所に法外児の人数を申告することを求めたのに対し、蛍保育園がこれに応ぜず、協力しなかったことにあり、蛍保育園に対する右調査及びこれに続く志賀学園に対する源泉所得税調査はいわば右非協力に対する報復としてされたものである。
(2) 蛍保育園に対する前記調査は、国税庁の「税務運営方針」に反して、当然に履践すべき事前通知を敢えてせずに、草野国税調査官らにおいて突然蛍保育園に乗り込み、勝手に、当該職員にいろいろ指示し、腹立ちまぎれに物をぶつけ、机などを探索して書類を持ち去るというものであった。
(3) 志賀学園に対する前記調査においても、草野国税調査官らは、波状的に臨場を繰り返し、その都度、勝手に、志賀学園の機器を使用して資料をコピーしたり、大量の資料を持ち帰り、交付すべき預かり証の交付もしなかった。
(4) そのように、草野国税調査官らの調査方法は、社会通念上相当性の限度をはるかに超える強引で粗暴なものであったが、本件各更正処分は、実質的に、このような法規に違反しあるいは反社会的な手段によって収集された資料に基づくもので、違法なものである。
(被控訴人の主張)
(一) 本件各更正処分に関して、控訴人に直接質問等をしたことはないが、本件各更正処分は、控訴人が提出した本件各申告書、志賀学園に対する源泉所得税調査に係る調査事績、右調査に基づく納税告知処分及びこれに対する不服申立ての有無を検討するなどの調査に基づくものである。
(二) 被控訴人は、控訴人主張のような蛍保育園及び志賀学園に対する強権的、違法な調査を行ったことはなく、また、本件各更正処分は、蛍保育園はもとより志賀学園に対する源泉所得税の調査とも対象者を異にした別個の調査に基づいて行われたものであるから、蛍保育園及び志賀学園に対する調査手続きの違法性は、本件各更正処分と何らの関係もなく、調査手続きの違法性がこれに基づく処分を違法とするものとしても、本件各更正処分を違法とするものではない。
2 認定の当否(争点その二)
(被控訴人の主張)
被控訴人の本件各認定賞与等の内訳、具体的内容は、次のとおり訂正、削除するほかは原判決事実欄(被告の答弁)第二、二、2、(一)ないし(三)(一六枚目表四行目から一八枚目裏五行目まで)、三(一九枚目裏二行目から二九枚目裏九行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
(一) 同第二、二、2、(三)、(3)のリード合奏会等により生じた簿外剰余金の金額「二一二万二四九四(円)」を「八一万五五九四(円)」と、摘要の「収支差額 一九八万〇八四〇円」を「収支差額 六七万三九四〇円」と、「合計 二一二万二四九四円」を「合計 八一万五五九四円」と(以下原判決一八枚目表)、同(三)昭和五六年分認定賞与等の額の合計金額「二八六二万九三九四(円)」を「二七三二万二四九四(円)」と(同裏)それぞれ改める。
(二) 同三、3、で引用する原判決別紙「リード合奏大会関係」の自55年4月~至56年3月欄の(2)合奏大会等の収入等「7,442,950」を「6,136,050」と、内訳集金等「7,788,750」を「6,481,850」と同欄の差引剰余金「1,980,840」を「673,940」とそれぞれ訂正する。
(三) 同5の「四倉工作所」を「有限会社四倉工作所」と(原判決二五枚目表)、同6の「ヤマカネ志賀建設」を「株式会社ヤマカネ志賀建設」と(同裏)それぞれ改める。
(控訴人の主張)
控訴人の、被控訴人の主張に対する反論は、つぎのとおり付加、訂正するほかは、原判決(原告の反論)四、五(三二枚目表九行目から三七枚目表三行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
(一) (原告の反論)四、3(原判決三三枚目裏八行目)の「リード合奏会の経費は、幼稚園児の保護者を中心に組織されているリード合奏後援会の会費と寄付金とでまかなわれているものであり」を、「リード合奏会は、志賀学園とは別個の父母の会と園児の保護者を中心に組織されているリード合奏後援会の事業であって、独立した会計で運営されており、その経費は、右後援会の会費(基金)と寄付金でまかなわれており」と改める。
(二) 同9の末尾(原判決三六枚目裏一行目)に「なお、右視察内容は、「日中友好幼児教育者訪中団行動記録・報告書」等(甲四、二〇の一・二)の記録によって明らかである。」を加える。
3 給与所得及び総所得の各金額
(被控訴人の主張)
本件係争各年分の本件認定賞与等の額を基にして、計算される控訴人に給与所得及び総所得の各金額は、次のとおり訂正するほか、原判決事実欄第二、二、3及び4(一八枚目裏六行目から一九枚目裏一行目まで)のとおりであるから、これを引用する。
(一) 同3の項目の給与等の収入金額の「<2>認定賞与の額」を「<2>認定賞与等の額」と、昭和五六年分の、<2>認定賞与等の額「二八六二万九三九四円」を「二七三二万二四九四円」と、<3>計の「三三九五万四〇九四円」を「三二六四万七一九四円」と、<4>給与所得控除額「三二四万七七〇四円」を「三一八万二三六〇円」と、<5>給与所得の額「三〇七〇万六三九〇円」を「二九四六万四八三四円」と(以下原判決一九枚目表)それぞれ改める。
(二) 同4の昭和五六年分の給与所得金額「三〇七〇万六三九〇円」を「二九四六万四八三四円」と(原判決一九枚目表)、総所得金額「三一二七万五三九〇円」を「三〇〇三万三八三四円」と(同裏)それぞれ改める。
4 納付すべき税額及び過少申告加算税額
(被控訴人の主張)
本件係争各年分の総所得金額を基にして計算した、控訴人の納付すべき税額及び過少申告加算税額は別表二記載のとおりである。
第三証拠関係
証拠関係は、原審及び当審記録中の各証拠目録記載のとおりであるから、これを引用する。
第四争点に対する判断
一 手続きの適法性(争点その一)
1(一) 更正は調査により行うものとされている(国税通則法二四条)が、右調査については何らその手続きが定められていない。そこで、課税庁は、その必要と判断する範囲及び程度において調査し、それをもって足りると解すべきであって、納税義務者に対し直接質問調査しなければならないものではなく、調査が不充分であったため、更正された課税標準ないし税額が不当であった場合は、これを理由として当該更正処分の取消を求めることができるのである。
(二) 本件各更正処分を行うに当たって、被控訴人が、納税義務者に当たる控訴人に対し直接質問しなかったことは、当事者間に争いがない。しかし、原審証人青木誠の証言によれば、本件各更正処分は、控訴人が提出した本件各申告書、志賀学園に対する源泉所得税調査に係る調査事績、右調査に基づく納税告知処分及びこれに対する不服申立ての有無を検討するなどの調査に基づくものであることが認められるのであって、控訴人の、控訴人を質問しなかったことをもって調査によらないものである旨の主張は理由がない。
2(一) 更正を行うための調査に瑕疵があったとしても、調査が不十分であった場合と同様、更正された課税標準ないし税額の不当を理由として当該更正処分の取消を求めることができるに止まるものである。したがって、調査手続きの瑕疵が直接当該調査により行われた更正処分に影響を及ぼすものではないが、ただ調査手続きが刑罰法規に触れ、公序良俗に反し又は社会通念上相当の範囲を超えて濫用にわたる等重大な違法を帯び、何らの調査なしに更正処分をしたに等しいものと評価を受ける場合に限り、その処分に取消原因があるものと解するのが相当である。
(二) ところで、本件において、蛍保育園に対する源泉所得税に関する調査が控訴人に対する所得税と無関係なものであることは明らかであるから、控訴人の、右調査手続きに違法な点があったとして本件各更正処分を違法とする主張は、それ自体失当というべきである。
(三)(1) 一方、志賀学園に対する源泉所得税に関する調査は、その性質上、控訴人に対する所得税の調査資料となり得るもので、現に、被控訴人は、右源泉所得税調査に係る調査事績を本件各更正処分の資料としているのであり、それにより判明した控訴人に対する各認定賞与の存在により、被控訴人は本件各更正をすべき職務上の義務を負うことにもなるのであるから、志賀学園に対する源泉所得税の納税告知処分と控訴人に対する所得税の更正処分とがそれぞれ別人格に対する別個の処分であることを理由に、右源泉所得税に関する調査に重大な違法があっても本件各更正処分の効力に影響を及ぼさないと解するのは相当ではない。
(2) しかし、まず、控訴人の、右源泉所得税に関する調査が蛍保育園の非協力に対する報復としてされた旨の主張は、その意味が明確とは言えず、不必要、無意味な調査の趣旨に解するとしても、右源泉所得税に関する調査により行われた志賀学園に対する各納税告知処分が確定していることに照らして理由がなく、不当な動機により調査の趣旨に解するにしてもこれを認めるに足りる証拠はなく、結局、右控訴人の主張は理由がないというべきである。
(3) 次に、控訴人主張の、草野調査官らが波状的に臨場を繰り返したとか、持ち帰った資料の預かり証の交付をしなかったというようなことは、前述の重大な違法に当たらないというべきであり、また、原審証人青木誠の証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、草野調査官らにおいて志賀学園に臨場した際、資料をコピーしたり、子細に検討を要する帳簿等の資料を持ち帰ったりしたことのあることが認められるが、右証言によれば、右資料のコピー等は志賀学園の経理担当職員の承諾の許に行われていたことが認められ、右本人尋問の結果中これに反する供述部分は、それ自体においても及び右証言と対比しても信用できない。
3 以下のとおり、控訴人の本件各更正処分が手続的に違法である旨の主張は採用できない。
二 認定の当否(争点その二)
1 給与の水増し計上により生じた簿外剰余金
(一) 証拠(乙九の一~一七、一〇の一~一九、一一の一~二六、一二の一~二七、一三の一~二三、一四の一~二四、一五の一・二、一六~二六、原審証人青木誠、以下、2ないし5及び9の各(一)、6ないし8の「証拠」には同証人の証言を含む。)によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、1)のとおり志賀学園では給与水増し計上により簿外剰余金が生じたことが認められる。
(二) 控訴人は、蛍保育園において、前記法外児に対する、その保護者からの費用の徴収を低額に抑えたため、パートタイマーの保母の人件費が賄えなかったので、志賀学園の人件費でこれを支弁した旨主張する。
右は、志賀学園が生み出した簿外剰余金の使途に関するものにほかならないが、当審証人志賀トシヱの証言、原審及び当審における控訴人本人尋問の結果によれば、蛍保育園に本件係争年において法外児が入園していたこと、その費用として保護者から徴収する保育料は、前記措置費より低額であったこと及び定員を超えて法外児を入園されたことにより、パートタイマーの保母を雇い入れたことが認められなくはないが、その人件費を志賀学園の人件費で賄った点については、右控訴人本人の供述は具体性に欠け、蛍保育園の最高責任者である右証人の供述するところは同じく具体性に欠けるうえ曖昧で、控訴人からこれに関する資料として提出された甲一一号証の一、二の記載によれば、却って右保育料は右保母の人件費を賄うに十分なことが窺え、これらに前記のように蛍保育園に対する簿外剰余金の存在を根拠とする源泉所得税の納税告知処分が確定していることを併せ考えれば、右控訴人の主張に沿う右各供述は到底信用できず、これを採用できない。
2 物品あっせん等により生じた簿外剰余金
(一) 証拠(乙三七の一~三、三八~四〇、四一の一~四、四二、四三の一・二、四四~五一、五二の一~一九、五三~五七、五九、六〇、六〇の一・二、六二の一~四、六三の一~三、六四の一~五、六五、六六の一~三、六七の一~一九、七〇)によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、2)のとおり、志賀学園では、園児に対して各種教材、遊具の支給、遠足、芋煮会、観劇等の年中行事の実施等の費用として保護者から集金した金員から簿外剰余金を生み出していたことが認められる。なお、本件係争各年における園児数に関する甲一〇号証の記載は、原審証人高橋恵美子の証言によれば、同証人が平成三年九月に集金原簿から拾ったものである旨供述するが、原審証人青木誠の証言により、前記志賀学園に対する源泉所得税調査の際、資料をつきあわせて作成されたと認められる乙三五、三六号証と対比して、より正確なものとは認められない。
(二) 控訴人は、被控訴人主張の費用は、園児の保護者からの預り金として、志賀学園の経理とは別個独立の会計により経理されており、仮にある年度内に余剰金が生じれば、当該会計において次期に繰越金として処理されている旨主張し、控訴人本人は原審及び当審においてこれに沿う供述をする。
しかし、右のような経理がされていたことを認めるに足りる証拠はなく、(一)掲記の証拠によれば、物品の園児に対する売渡価格は仕入れ価格に差益を乗せて設定されており(例えば、昭和五三年度においては、園服の仕入れ価格が三五〇〇円であるのに対し、売渡価格は四〇〇〇円と、半ズボンの仕入れ価格が一六〇〇円であるのに対し、売渡価格は二〇〇〇円とそれぞれ設定されている。)、また、物品の仕入れ代金の支払は、園児の保護者からの集金からだけでなく、志賀学園の資金からもなされていることが認められ、右供述は信用できず、右控訴人の主張は採用できない。
3 リード合奏会等に関する簿外剰余金
(一) 証拠(甲三の一~三、乙五八、六八、六九の一~六)によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、3)のとおり、志賀学園が、全国幼稚園リード合奏大会参加園児の音楽練習のための講師の宿泊費等について重複支出を行い、また、右大会の参加費用及び卒園のための必要費用として園児の父兄から徴収した金員から簿外の剰余金を生み出していたことが認められる。
(二) 控訴人は、リード合奏会は志賀学園とは別個の父母の会と園児の保護者を中心に組織されているリード合奏後援会によって運営されており、その経費は、後援会の会費(基金)と寄付金でまかなわれているものであり、右後援会費は、園児ごとに作った郵便貯金通帳により、志賀学園の会計とは別途の会計により経理され、志賀学園は便宜右通帳を保管しているにすぎない旨主張し、控訴人本人は原審及び当審においてこれに沿う供述をする。
しかし、リード合奏会の経理が志賀学園の経理と別個独立に処理されていたことは、右供述以外にこれを認めるに足りる証拠はなく、証拠(乙五五~五七)によれば、リード合奏会のパンフレットの作成、参加費用等の集金、支払事務等は全て志賀学園が行っていて、リード合奏会の参加等の行事は志賀学園の事業の一環として行われていたことが認められ、右供述は信用できず、右控訴人の主張は採用できない。
4 長瀬博文との売買代金に関する簿外剰余金
(一) 証拠(乙二四、二七~二九)によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、4)のとおり、志賀学園が長瀬博文との土地売買代金(売買は当事者間に争いがない。)に関し簿外剰余金を生み出したことが認められる。
(二) 控訴人は、右売買代金二〇〇万円に取得した土地の造成と土木工事費用四〇〇万円を加えたものを、帳簿上土地取得に要した費用として計上したものである旨主張するが、虚偽の領収書(乙二七)まで徴収して、そのような経理をしなければならない理由は見当たらず、かつ土地造成等の費用として右金員を支出したことを認めるに足りる証拠もなく、右控訴人の主張は採用できない。
5 四倉工作所との売買代金の関する簿外剰余金
(一) 証拠(乙二六、三〇~三三)によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、5)のとおり、志賀学園が有限会社四倉工作所との土地売買代金(売買及びその代金額は、当事者間に争いがない。)に関する簿外剰余金を生み出したことが認められる。
(二) 控訴人は、帳簿上の代金額二四〇〇万円と実際の代金額八〇〇万円との差額一六〇〇万円は、志賀学園が他に貸し付けたものである旨主張し、控訴人本人は原審及び当審においてこれに沿う供述をする。
右は、簿外剰余金の使途に関するものといえるが、そうであれば、わざわざ虚偽の領収書(乙三〇、三一)を徴収しなければならない理由は見出せず、かつ、その旨明確に記載された帳簿及び借用証書類の存在も認められないことからして、右供述は信用できず、右控訴人の主張は採用できない。
6 保育室の増築工事に関する簿外剰余金
証拠(乙七七、七八)によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、6)のとおり、志賀学園は株式会社ヤマカネ志賀建設に対する保育室増築工事代金に関する簿外剰余金を生み出したことが認められ、原審における控訴人本人尋問の結果中これに反する部分は右証拠と対比し信用できない。
7 ピアノ購入に関する簿外剰余金
証拠(乙四九、六二の一~四)によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、7)のとおり、志賀学園は架空のピアノ購入により簿外の剰余金を生み出したことが認められ、原審における控訴人本人尋問の結果中これに反する部分は右証拠と対比し信用できない。
8 全国学校法人幼稚園連合会第九回全国教研大会(京都大会)に関する簿外剰余金
証拠(乙七一、七二の一・二、七三の一・二、七四~七六、八四)によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、8)のとおり、志賀学園は全国学校法人幼稚園連合会第九回全国教研大会(京都大会)参加費(志賀学園が参加したことは当事者間に争いがない。)に関する簿外剰余金を生み出したことが認められ、原審における控訴人本人尋問の結果中これに反する部分は右証拠と対比し信用できない。
9 福島県学校法人幼稚園教員研究大会(県法幼研究大会)に関する簿外剰余金
(一) 証拠(乙五三、七一)によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、9)のとおり、志賀学園は福島県学校法人幼稚園教員研究大会(県法幼研究大会)に関する簿外剰余金を生み出したことが認められる。
(二) 控訴人は、志賀学園で誤って二重に出金伝票を切ったが、これに気付いて、総勘定元帳(甲一七の二~七)及び合計残高試算表(甲一八の一・二)には昭和五五年一〇月一七日分のみ記録した旨主張し、右元帳等にはその旨記録されていることが認められるが、出金伝票を切った都度、それに伴い出金されていると認めるほかないところ、誤って支出したという金員が返還されたことが認められない以上、剰余金の発生を否定できないというべきであり、右控訴人の主張は採用できない。
10 中国旅行に関する簿外剰余金
(一) 控訴人が昭和五四年六月四日から同月二〇日までの一七日間の日程で中国を旅行したこと及び志賀学園が同年五月一日に株式会社ビデオジャポニカに対し、その費用(研修費用)として八五万六〇〇〇円の支払をしたことは当事者間に争いがない。
(二) 控訴人は、中国旅行は、中国における幼児教育の実際を探訪する目的をもって教材会社が企画したものであること、その内容は、「日中友好幼児教育者訪中団行動記録・報告書」等(甲四、二〇の一・二)の記載によって明らかであること、これらの成果は、志賀学園の幼児教育の現場に生かされていることから、志賀学園が右中国旅行の費用を志賀学園の業務の遂行上必要な研修費として計上したことは正当である旨主張する。
しかしながら、証拠(甲四、二一、当審証人志賀トシヱ)によれば、右旅行に参加した団員二一名のうち幼稚園関係者は一〇名であること、旅行日程中、幼稚園を視察したのは第二日、第三日、第六日及び第一二日の各数時間に過ぎず、全行程の大部分が観光に充てられていること、成果として具体的なものが見当たらないこと、翌昭和五五年に同一会社主催による同様の中国旅行に、控訴人らの家族四名が参加しているものの、控訴人は右旅行費用を個人で負担していることが認められ、これによれば、控訴人の昭和五四年の中国旅行が志賀学園の業務の遂行上必要なものということはできず、右控訴人の主張は採用できない。
11 課税漏れ役員報酬
(一) 志賀学園が被控訴人主張(原判決事実欄第二、三、11、(一))のとおり、本件各係争年において役員報酬を計上したこと、その中には控訴人に対するものとして各五万円が含まれていること、これらの役員報酬については、いずれも源泉所得税が徴収漏れとなっていることは当事者間に争いがない。
(二) 控訴人は、被控訴人主張の役員報酬は、報酬ではなく、理事会等を招集した際の交通費の実費の概算代償である旨主張し、控訴人は原審においてこれに沿う供述をする。
しかし、証拠(乙二四~二六)によれば、志賀学園は、右役員報酬について、「人件費支出」の「その他の支出」として処理していること、支給を受けたのは志賀学園の理事長、理事、監事であり、その支払額は一律年額五万円であることからすれば、右役員報酬が、交通手段、距離、出席回数に応じて支払われるべき交通費等ではなく、理事長を含む理事等に対する労務ないし役務の対価として支払われたものであることは明らかというべきであり、右控訴人の主張は採用できない。
12 控訴人は、志賀学園には簿外の剰余金で取得したと推認できる資産は存在せず、控訴人にもそれに相当する資産の増加はない旨主張し、控訴人本人は原審及び当審においてこれに沿う供述をする。
そして、被控訴人が当審において提出した乙八七号証によれば、控訴人及びトシヱが本件各係争年に衣服、宝飾品等の買物をしていることが認められなくはないが、その代金が前記認定の簿外剰余金から捻出されたものであることまで認めるに足りる証拠はない。
しかし、常に簿外剰余金に見合った資産の存在が、当該剰余金の成立とは別個に立証されなければ、剰余金の成立が否定されるというような経験則はなく、資産の存在形態の多様性、弁論の全趣旨から窺える控訴人らの生活水準、前記簿外剰余金の額等に照らせば、本件において剰余金に見合った資産の存在が立証されていないことは、前記認定の妨げにはならないというべきである。
13 原審証人青木誠の証言及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人主張(原判決事実欄第二、四=二九枚目表八行目以下)の事実が認められ、これによれば、前記簿外剰余金は志賀学園の理事長であった控訴人に賞与として支給されたものと推認できる。
第五まとめ
一 前記認定の本件係争各年度分の本件各認定賞与等の額を基にして計算した控訴人の給与所得及び総所得の各金額並びにこれを基にして計算した納付すべき税額(源泉徴収税額は乙二の一~三、八、八六により認められる。)及び過少申告加算税額(本件各更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が、各更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第六五条二項(昭和五九年法五号改正前)に規定する正当な事由があるとは認められないことは明らかである。)は、被控訴人主張のとおりであり、本件各更正処分及び本件各賦課処分は右各金額の範囲内で行われているのであるから、昭和五四年分の審査裁決により取消された部分を除き、いずれも適法である。
二 よって、控訴人の本件各更正処分等の取消しを求める請求は理由がないから、これを棄却した原判決は相当で、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用の負担につき行訴法七条、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判所 豊島利夫 裁判官 永田誠一 裁判官 杉山正己)
別表一
一 昭和五四年分
<省略>
二 昭和五五年分
<省略>
三 昭和五六年分
<省略>
別表二
一 昭和五四年分
<省略>
一 昭和五五年分
<省略>
一 昭和五六年分
<省略>